ねじまき士クロニクル

動物達集まる

朔太郎 伊香保温泉 石段上がりの町

私の郷里は前橋であるから、自然子供の時から、伊香保へは度々行って居る。で「伊香保とはどんなところです」といふやうな質問を皆から受けるが、どうもかうした質問に対してはつきりした答をすることはむづかしい。併し簡単に言へば、常識的の批判からみて好い温泉である。

 猫町で空想の中にせよ宇奈月温泉に行って居た朔太郎ですが、自分の故郷の前橋のお隣の伊香保温泉のことを気に入っていたようです。親しみのある自然な温泉、特別に良い訳ではないけれども悪い訳でもない、新鮮でもなければ古風でもない常識的な温泉と述べています。その一方でお隣長野県の温泉のことを嫌いと言っています。それも本当に群馬の近くにある温泉です。

 私は可成所々‐所々といつても東京附近だが‐の温泉を歩いたが、未だこれといふやうな温泉には一つも行き当らない。どこも皆面白くない。就中、信州の渋とか湯田中といふやうな百姓めいた温泉、言はば「田舎者の湯治湯」といつた感じのするところは何より嫌ひだ。

 同様に群馬県のお隣、栃木県の那須温泉は嫌いなようです。那須の自然自体は褒めていますが温泉はどうも受け付けないようです。田舎の百姓が湯の隅で念仏を唱えたり、不潔な女を冷やかしたりするような温泉と評しています。お隣の長野県と合わせて、地元の伊香保以外が嫌いなような印象を受けますが、好みの温泉についてこう語っています。

温泉はやはり山の渓谷のような、そこだけで一廓をなしてゐなければいけない。

 感じが明るく、静かで華やかなで、西洋の匂いと山間都市に対する蜃気楼的な幻想などという好みの観点から、関東付近で好きな温泉は『箱根』のようです。そして箱根の次に好きなのは伊香保と述べています。

 石段があって、石垣があって、細い横町や路地があって、南欧の田舎町のという雰囲気が気に入っているそうです。人混みや自然などを考慮して特に5月頃の春の伊香保を勧めています。

 その一方、海岸沿いの温泉地は嫌いらしく伊東も熱海もあの別府も温泉らしくないとまで言われています。確かに別府は温泉地が市内の各地に散らばっていて好みの温泉地ではなさそうです。それでも別府には温泉地が何か所もあって好みの温泉地も見つかりそうなものなのに、郷里の伊香保温泉を基準に温泉の好みを決めていることがうかがえます。

その頃の伊香保はほんとに好い。一体、伊香保に限らず、温泉町の春の夜は別である。

 群馬の草津には今は亡き祖母を連れて行ったことがありますが、残念ながら伊香保にはまだ行ったことがありません。いつか春の伊香保に行きたいと思っています。