ねじまき士クロニクル

日向の窓にあこがれて

左の代打の切り札の思い出

 ほの湯は好きですか?

 私は好きです。広島には温泉が少ないのが心底残念ですが、ほの湯はなかなか素敵な場所です。特に平日昼間のほの湯は贅沢な時間でした。

 もう何年も前の話ですが、サウナに入ると、明らかに一般人とは違う体を持つ、美術の教科書に出てくるようなギリシャ彫刻そのままの体の人がいました。よく見なくても誰かわかりました。袖をまくって筋肉を相手投手に見せつけるあの選手でした。何年か前に引退したというのに、ものすごい筋肉でした。これがプロ野球選手の体か…と圧倒されました。

 左の代打の切り札はじっとテレビの高校野球を見ていました。私もサウナの中で一緒に高校野球をじっと見ていました。「高校野球見て現役に戻りたくならんのんかな?」と素朴な疑問が浮かびました。が、もちろん声をかけることはしません。お風呂で声をかけるなんて野暮です。野暮の極みです。この気持ちが以心伝心で伝わってくれていたらとても嬉しかったのですが、サウナで汗を流しながら夏の甲子園を集中して見ていました。残念ながら私の気持ちは伝わっていなかったみたいでしたが、子どもの頃から憧れていた選手に偶然会えただけでも幸運でした。

 その選手の全盛期には、カープには現監督と前田智徳と現阪神監督が外野のスタメンでした。他の球団なら一年通してスタメンで出られる力もあったはずなのに、それでも左の代打の切り札としてずっとカープ一筋でFAもせずに引退するまで広島で野球選手をしてくれました。

 90年代は打つ選手が多く(けが人も多く)優勝も期待できる戦力でしたが、00年代に入り投手陣が慢性的に崩壊。どう考えても優勝できるチームではなかったのに広島に最後まで残ってくれました。この選手が引退したときにはやっぱり悲しいものがありました。前田智徳も泣いていました。今カープで活躍している選手が将来引退しても、子供の時に覚えたような感情を抱くかどうか… 

 10年前とは比べてカープは強くなりましたが、今回のCSは昔のダメだったころのカープを見ているかのようでした。いわゆる暗黒時代の何かにとりつかれているのかもしれません。

 去年も4連敗、今年も4連敗でカープの野球は終わりました。激しい争奪戦の末にチケットを手に入れて球場に行ったカープファンはかなりきつかったはずです。今回のCSの代打の場面で「今のカープにあんな選手がいてくれたらな」と不覚にも思ってしまいました。