ねじまき士クロニクル

日向の窓にあこがれて

すべての道はローマに通ず ローマ人の物語Ⅹ

 何度目かの「ローマ人の物語」の通読中です。

10巻目は、パクス・ロマーナ、賢帝の物語からちょっと一息、ローマのインフラについてです。この巻だけではなく「ローマ人の物語」を通して一貫して描かれているのは、ローマ人のインフラ整備に関する意識の高さです。それでもローマ帝国のハードなインフラとソフトなインフラに関して丸々一巻使っています。2000年前のローマ帝国のインフラに、日本が追い付いたのは江戸時代、もしくは明治になってからです。これだけでも、どれだけローマ帝国のインフラが進んでいたかがわかります。古代に生きていた人たちの中で、ローマ人だけが他の民族とはインフラに関する概念が違っていました。

 古代のエジプトは1人の墓のために莫大な労働力が投入されていましたが、古代ローマでは労働力の対象は道であり、橋であり、水道であり、公衆浴場でした。中国で万里の頂上を作り始めた頃、ローマではアッピア街道という国道一号線と言ってもいい道(当時の高速道路)を作り始めていました。国家の大事業として、壁を作った中国と道を作ったローマ、二つの大国の外の世界に対する思想というものがこのことからもわかります。事実、ローマはその後に支配した地域に対して次々とインフラ整備をして各地の交流を活性化させることとなりました。敗者も同化させて、ローマ以外の地域からも皇帝を出すことになります。インフラはハードな分野だけではなく、そこの人たちの精神にも影響を及ぼさずにはいられないと著者は述べています。

 

 ハードなインフラとして扱っているのは道、橋、水道です。

 ソフトなインフラとして扱っているのは教育、医療です。

 

 興味深いのはやはり「道」です。ローマ人は単に道路を作るだけでは飽き足らず、地面は可能な限り水平に、橋をかける時もできるだけ水平に、そして石で舗装された水はけさえ考えられた道を作っていました。単なる道ではなく、勾配も少なく列車でも通れるような「高速道路」でした。その高速道路には、時代を経て、宿や馬を替えられる現代で言う道の駅のような設備も整えられていきました。そして、ローマ人は道だけではなく「道路網」を作ることを良しとしていました。当時の道と、現代の道の地図が載っていますがかなりの部分で重なっています。イタリアだけではなく、他の地域でも街道網が整備されていました。

 水道もお風呂に入るためなのか、かなりの数が建設されています。地下を通した水道が多く、水質を保つために源泉かけ流しが基本だったそうです。テルマエ・ロマエの世界ではないですが、当時の価値観を持ったローマ人と現代の日本人は、なかなか気が合いそうです。

 それでも道も水道もローマ帝国が落ち目になってからは補修もされなくなっていったということです。道も水道もローマ帝国の水準に戻るまでは1000年ほど時間を待たなければなりませんでした。例として、ローマで10本目の水道「トライアーナ水道」(トラヤヌス帝が建設)はローマ帝国滅亡後使われなくなり、その後中世に復活。しかし、キリスト教関連の施設に水を供給してていたために聖パウロにちなんで「パオロ水道」と名前を替えられたそうです。

 

 ソフトなインフラに関してはあまりページが割かれていませんが、ソフトなインフラもハードなインフラも他の「ローマ人の物語」を通して十分すぎるほど書かれています。安全保障、税制、通貨、郵便、娯楽施設…

 これだけを読む人もなかなかいないと思いますが、ローマ人の物語の中でどれか一冊おすすめをするとしたら、このインフラの巻がお勧めです。ローマ人の「公共の精神」というものがわかりそうな気がします。現代の為政者で公共の精神を持っている人は…私が知っている国会議員はHDDにドリルで穴を開けるような人たちです。

 

 

 インフラに関する本を書くため著者はラテン語の「インフラ」という言葉を探しますが、当時はその「インフラ」という言葉がなかったことを知ります。そして「インフラ」を表現する「モーレス・ネチェサーリエ」という言葉に当たります。そしてそれを日本語にすると「必要な大事業」となるそうです。そして本の終りをこう結んでいます。

 現代でも、先進国ならば道路も鉄道も完備しているので、われわれはインフラの重要さを忘れて暮らしていける。だが、他の国々ではそこまで期待できないので、かえってインフラの重要さを思い知らされる。水も、世界中ではいまだに多くの人々が、充分に与えられていないのが現状だ。

 経済的に余裕がないからなのか。

 インフラ整備を不可欠と思う、考え方が欠けているからだろうか。

 それとも、それを実行するための、強い政治意志が欠けているからか。

 それともそれとも、「平和」の存続が保証されないからであろうか。

 

 必要な大事業が未だに世界で行き届いていない理由が私にはまだわかりません。

 私が暮らす広島にもとても立派なインフラがあります。アストラムラインと広島空港について、少し考えてみます。