ねじまき士クロニクル

いちごの味に似ている

完全教祖マニュアル

大事なことなのでもう一度言います。教祖は決して難しいものではありません。本書を読めば誰でも簡単に教祖になることができます。本書は様々な宗教の分析から構築された極めて科学的なマニュアルです。科学ですから決して怪しい本ではありません。皆さん、本書を信じて、本書の指針のままに行動して下さい。本書の教えを遵守すれば、きっと明るい教祖ライフが開けるでしょう。教祖にさえなれば人生バラ色です! あなたの運命は、いままさにこの瞬間に変わろうとしています! 本書を信じるのです。本書を信じなさい。本書を信じれば救われます──。

キミも教祖になろう! 教祖ってなに? 教祖はこんなに素晴らしい! 宗教って怪しくないの? ホントに信者はできるの? 不安を煽ろう 救済を与えよう 食物規制をしよう 断食をしよう 暦を作ろう セックスをしよう 悟りをひらこう 弱っている人を探そう 金持ちを狙おう 親族を勧誘しよう 人々の家を回ろう イベントを開こう 宗教建築をしよう 他教をこきおろそう 他教を認めよう 異端を追放しよう 迫害に対処しよう 甘い汁を吸おう 出版しよう 後世に名を残そう 国教化を企てよう 

 

 上記はタイトルの中の一部です。ふざけたタイトルが並んで、宗教を風刺したような文章ですが、中身はまっとうな宗教の解説本です。大多数の日本人が宗教に対して疑問に思っていることを文章にしてくれています。教祖になりたい人にも、信者になりたい人にもおすすめです。

「完全教祖マニュアル」と銘打っているだけあって、宗教を作る側の立場からの視点で書かれています。これを読めば日本において創価学会のような団体を作ることも不可能ではないかも知れません。

 そうとは言っても、これを読んで教祖になろうと決心する人はまずいないはずです。たぶんこの本の通りにやっても教祖にはなれません。しかし、宗教やその教義に対しての免疫をつけることができると思います。扱われているのは主要な宗教と、バハイ教。私は完全教祖マニュアルを読むまで「バハイ教」というものを知りませんでした。wikipediaによると公称600万人の新興宗教の様です。600万…創価学会と同じくらいかもしれません。著者のプロフィールやら経歴はおよそ普通の本とは違いますが…中身は本文や巻末の参考文献からかなり本格的ということがわかります。こういった本はガッチガチに何かを信仰している人ほど読んで欲しいですが…

 この本のキーワードは「ハッピー」です。教祖とはつまり信者をハッピーにする仕事です。信じる人だけでハッピーだったらそれでいいですが、信じていない人をも巻き込んでアンハッピーにされそうなのが今の世界の現状です。無宗教でも宗教を知らずに生きていくことはできません。今のところ。

†不安を煽ろう

たとえば、キリスト教を見てみましょう。キリスト教の言うところによれば、毎日のほほんと暮らしている私たちも実は困っているのです。というのも、私たちは、遠い遠いご先祖様のアダムさんとイヴさんがエデンの園で果物のつまみ食いをした罪を引き継いでおり、このままのほほんと生きて死んだ場合は一〇〇%地獄に落ちてしまうのです。天国に行きたければキリスト教徒となって神を信じるしかありません。それで、もし彼らの言い分を信じるならば、私たちはこのままだと将来地獄に落ちて確実に困るわけですから、「そうか、今まで全然気付かなかったけど、オレって実は困ってたのか」と不安になってしまうわけです。これがどういうことか分かりますよね? 困ってなければ困らせればよいのです。

†救済を与えよう

 前項の「不安を与えよう」において、筆者は人々を不安にして宗教に引き込むことを提案しました。しかし、忘れないで下さい。教祖の仕事というのは、あくまで人をハッピーにすることだということを。不安なままではハッピーになれません。不安にしたからには、今度はそれを解決して救済を与えなければならないのです。キリスト教ならば「神を信じれば天国にいけるよ」、仏教ならば「悟りをひらけばオッケーだよ」とちゃんと解決法を与えてますよね。あなたも不安を与えたからには救済も与えなければならないのです。

 信仰しなければ不安も罪もないのにとは思いますが、不安を煽ったからには救済を与えないといけませんし、その救済は信者にしか適用できません。わかりにくいキリスト教の概念も「宗教を作る」という立場に立てば信仰していない外部の人にも、教義の理由というものが見えてきます。このマニュアルには、信者は教義の理由まで深く考えないとありますが、信者も信者じゃない人も教義の理由を知れば相互理解が進むかも知れません…

 もちろんキリスト教徒にとってはこれは概念ではなく真実です。残念ながら私は死んだら地獄行きです。今日初めて知りましたが、地獄に行くと目玉をくり抜かれるらしいです。怖いですね。

 本文中に難しい概念や、単語は一切ないですが、キリスト教イスラム教、仏教などに対して理解や免疫が得られます。宗教を学ぶ際の入り口に最適なマニュアルなのかな、と今この文章を読んでいる人を洗脳してみます。

 著者は章ごとに教祖になるために不足はないか、わざわざチェックリストまで用意してくれています。みなさんも教祖になる前に確認した方が良いですね。

完全教祖マニュアル (ちくま新書)

完全教祖マニュアル (ちくま新書)