ねじまき士クロニクル

とある整備士のつぶやき

乗っていたバスが人をはねた

 これは日本ではなく右側通行の外国での話です。

 前日の夕飯に当たってお腹が痛いのを心配しながら、長距離バスで田舎道を速度60Kmほどで移動中、ドンという何かが破裂したような音と共にバスの車体が大きく左にスリップしました。お腹は痛かったですが、もちろんシートベルトをしていたので何ともありませんでした。私は真ん中の左側の窓側の席に座っていたので何が起きたのか全く分かりませんでした。何らかの理由でタイヤがバーストでもしたのかと思いきや、何やら右側に座っていた乗客が騒いでいました。そして外の景色を見ると、外の人たちも何やら落ち着かない様子で騒いでいました。

 スリップしていたバスを路肩に寄せて、他の乗客がぞろぞろとバスから降りて行ったので私も席を立つとフロントガラスの左側が丸い何かにぶつかったのか粉々になっているのに気が付きました。これはもしやと思いながら外に出ると残念ながら一人の若者が頭から血を流して倒れていました。頭の形が残っていただけマシだったかもしれません。

 時速60Kmのバスと一人の若者。ぶつかったらどうなるかは目に見えています。誰も介抱するでもなく、ただ一人の若者が熱そうなアスファルトの上にうつぶせになっていました。他の乗客は始めの時こそ騒いでいましたが、後は落ち着いていました。ドライバーだけがハンドルを握りしめたままうなだれていました。その後みんなで交番に行き事情聴取が終わるまで待ちました。その後何時間か経ってから代わりのバスが来て、乗り換えて再度出発した時にはバスの中でいつも通りB級映画が上映されてみんなで笑いあっていました。日本で事故に遭った場合、バス会社からアフターサービスがあるかもしれませんが、この国ではそういったものももちろんありません。乗客ももちろんそんなことは求めていません。ただ移動できればそれでいいのです。道中、事故で人をはねたとしても目的地に着ければそれでいいのです。この国では死がとても身近にあります。たぶんごくありふれた出来事です。そういうものです。

 何年か前の少し古いデータですがこの国の車(四輪と二輪)の台数は130万台ほどです。同時期の日本は9000万台です。ですが交通事故の死者数はこの国ではデータ上は年間5500人程(私はもっと上だと思っています)。道を歩いたり車やバイクに乗るのはかなりお勧めできない国です。日本は現在、年間4000人以下です。

 死者数の差から考えて、日本人は外国人よりも頑丈なのか?そんなことはありません。肌の色は違えど同じ赤い血が流れている人間です。時速60㎞でバスとぶつかったらたいていの日本人は死にます。トラックでも死にます。乗用車でも死にます。自転車とぶつかっても死ぬかも知れません。日本でも実際に交通事故の死者数が1万人を大きく超えていた時期もありました。そこから何が改善されて交通事故での死者が減ったのか?車の安全性の向上、道路の改善、医療体制の改善もあると思います。しかし私は一番の要因はドライバーの気持ちだと思います。精神論は嫌いですが。私にはそれ以外に交通事故における他の外国との(特に途上国との)死者数の差を説明できません。一億台近くの車を保有する自動車大国のなのに交通事故での死者がかなり少ない(それでもまだ4000人程)というのは単純には喜べませんが他国と比べると誇ってもいいことなのかもしれませんね…

 最近、整備工場にフロント周りが大破した、プリウスに似た起亜のよくわからない車が入ってきました。話を聞くと人をはねて殺めた車らしいです。そういった車でもこの国では直して乗ります。よく見たらフレームの溶接部分にひびが入っていても直して乗ります。悲しいけどそういうものです。

 整備工場では修理代を払いたくないのか払えないのか、お客さんからの大量の車が放置されています。平均所得は日本の何十分かの一なのに、ガソリンは日本とほぼ同じ値段(産油国なのに)。もちろんパーツは工業製品なので世界共通、日本と同様かむしろ割高な値段です。車を他国から輸入すればするほど、車に乗れば乗るほど国が貧しくなるのに、この国では自家用車を持つことが富の象徴です。そういうものです。

 データは世界ランキングサイトからです。