ねじまき士クロニクル

いちごの味に似ている

村上春樹のアンダーグラウンドを読む

道路のこっち側で人が倒れていても、道路のあっち側では通勤している人たちがいた。

普段乗らない地下鉄で被害にあった人がいた。

普段乗っている地下鉄で被害にあった人がいた。

異変に気付いて窓を開けた人がいた。

異変に気付いてもじっと座っていた人がいた。

仕事の責任感から得体のしれない液体が入った袋を処理した駅員さんがいた。

松本サリン事件で教え子を亡くして、東京の病院にサリンの資料を送っていた医師がいた。

救急車が来ないから通行していた車を止めて病院に送っていた人がいた。

バス停で倒れている人を知らんぷりしている人たちがいた。

被害者なのに警察に疑われている人がいた。

被害にあったことで喧嘩していた彼女との愛を確かめることができた人がいた。

最初に出会った時に結婚を意識した最愛の夫を奪われた人がいた。

 

 

被害の大小にかかわらず、地下鉄サリン事件を経験した市井の人々の生の声です。Kindleの英語版では省略されているページが多数ありますが、原典には無駄なページは一つもありません。阪神大震災とこのサリン事件が村上春樹に与えた影響は、以降の作品を見る限りかなり大きいと思います。ですがそんなことは些細なことです。この本の主役はサリン事件で被害にあった方たちと、まだテロの被害にあっていない読者です。読者の誰もがここに登場する人たちの一面に重ねられる部分があるはずです。

世の中の多くの人は、救いを宗教に求める。しかしもし宗教が人を傷つけ、損なった場合、彼らはいったいどこに救いを求めればいいのか?

 村上春樹が抱いたこの疑問。オウム真理教という宗教団体によって引き起こされた地下鉄サリン事件ですら、20年以上が過ぎた今でも解決されていない問題です。サリンを撒いた動機がはっきりと解明されたわけでもなく、死刑囚に刑を執行するわけでもなく、今はただ単に麻原が自然死するのを待っているだけの様に思えます。死刑を執行すると、他の信者に影響があるとかないとか様々な理由が挙げられています。今となってはもう手遅れかもしれませんが、そこらへんもすべてひっくるめて、真正面からオウム事件に取り組むべきだったと思います。今後、もしも、日本でテロが引き起こされたときにどのように日本人は対処するのか、それともオウムの様に凶悪な集団が起こした事件によって、不運な人が不幸な被害にあったということで済ませてしまうのか…たまたま、島国で海という国境に守られているからと言って、現在の世界情勢で日本だけが特別だとは思えません。信仰心が薄い日本人ですが、否応なしに世界の宗教と向き合わざるをえません。2020年にはオリンピックの予定すらあります。

 日本の社会が、このサリン事件をどう教訓として分析しているのかは知りません。社会のことは社会の偉い方に任せます。私は個人としてできることをやります。被害者の方の話を読んで影響されてしまいました。

『赤いハンカチを持つこと』

『50m先でも倒れている人がいれば助けに行くこと』

いざとなれば実践できるかどうかはわかりませんが、とりあえず私にできそうなことはこれくらいです。その時その場で自分にできる役目を果たそうと思います。

 

アンダーグラウンド (講談社文庫)

アンダーグラウンド (講談社文庫)

 

 

 

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