ねじまき士クロニクル

いちごの味に似ている

『老いる家 崩れる街』

 本には読まれるべき時期というものがあると個人的には思います。

 小学生の時に読んで一生の記憶に残る本。中学生の時に読んで読書感想文に困る本。高校生で読む少し背伸びした本。社会人になって読む仕事のための本…私は読書家ではないので本はあんまり読んできませんでした。

 それでも以前、私も一念発起して読書家になりたいと思ったこともありましたがやっぱり駄目でした。何年か前に買った『竜馬がゆく』の坂本龍馬はまだ土佐から出られずに、千葉さな子と会ってすらいません。竜馬はまだどこにも行けていません。東大阪にある司馬遼太郎の記念館にすら行ったのに。近いうちに読むので許してください。

 

  前置きが長くなりましたが、そういった意味で『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』というのは2016年の今、日本人みんなが読むべき本だと思います。あまり『読むべき』とかいう言葉は使いたくありませんが、2016年の今、読むべきです。5年後でも10年後でも手遅れです。もっとも、もしかしたら今でも手遅れかもしれません。冒頭から日本の不思議な住宅環境について簡潔に述べてくれています。

  私たちは、「人口減少社会」なのに「住宅過剰社会」という不思議な国に住んでいます。住宅過剰社会とは、世帯数を大幅に超えた住宅が既にあり、空き家が右肩上がりに増えているにもかかわらず、将来世代への深刻な影響を見過ごし、居住地を焼き畑的に広げながら、住宅を大量につくり続ける社会のことです。

 新規で新しい場所に住宅を作ると将来にわたってインフラを維持することや公共サービスに多額の費用が掛かります。それを考えずに新築物件を次々につくっていくことに著者は警鐘を鳴らしています。

 この本の帯で住宅過剰社会の失敗都市の例として東京都中央区・港区・江東区・町田市、群馬県前橋市、埼玉県川越市羽生市秩父市、千葉県習志野市、静岡県浜松市和歌山県和歌山市兵庫県神戸市、香川県高松市、福岡県福岡市…などを挙げています。どこか知らない架空の街ではなく問題が起きているのは実際の都市です。本書に記載がなくてももしかしたら読み進めていくうちに自分の街のことの様に感じるかもしれません。実際、わが家の畑をマンションに変えて金儲けしようとするいくつかの業者が日中よく訪問してきます。(現在私は自宅警備員をしています)畑よりマンションにするのは儲かるのはわかっています。だが断っています。

 現在でも、日本の総世帯数である5245万世帯より16%も多い6063万戸もの住宅があります。わかりきっていることですが日本の人口が将来減るのは確実です。2060年には2010年の人口の約7割まで減少されていることが予測されています。さらに今現在でも毎年100万戸ほどの新築物件が供給されています。ちなみに2015年の赤ちゃんの数が100万8000人です。そしてあと何十年かすると団塊の世代の方の家も空く可能性が高いです。この数字をどう考えますか?それとも移民を受け入れて簡単に解決してしまいますか?

 本を読んだらわかりますが、著者は非常に誠実にデータと事実を提示してくれています。

 不動産会社や行政にも、「新築の物件を規制しろ」などとは書いていません。住宅・建設業界に対して(私はどこの業界も同じだと思いますが)、常に建物を作り続けないと収益が確保しにくいビジネススタイルであることに対して理解も持っています。著者の立場としては『住宅というのは建てた後のことも大事だから将来や周囲のことも考えて建ててください』というようなお願いです。でもそのお願いが叶わなくて世間に問題を知ってもらうために新書を書いています。タワーマンションに住んでいる人には少し怖い内容が含まれています。

 ここからは私の感想ですが、住宅も法律もインフラも人口や経済が右肩上がりの時代だったら許されていたことに限界が来ているのだと思います。各市町村の人口維持政策もほとんどが自分のところより少し不便な地域から人口を横取りしているだけです…出生率改善よりか移住促進の方が手っ取り早いですからね。

 

 最後に著者の住宅過剰社会への対策を記しておきます。

  • 自分たちのまちへの無関心・無意識をやめる
  • 住宅総量と居住地面積をこれ以上増やさない
  • 「それなり」の暮らしが成り立つ「まちのまとまりをつくる」
  • 住宅の立地誘導のための実効性のある仕組みをつくる
  • 今ある住宅・居住地の再生や更新を重視する
  • 住宅の終末期への対応策を早急に構築する
  • もう一歩先の将来リスクを見極める

 

 どうか日本が手遅れになりませんように。答え合わせはオリンピックの後で?

 

老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 (講談社現代新書)

老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 (講談社現代新書)