ねじまき士クロニクル

日向の窓にあこがれて

『気球に乗って5週間』

 私は行ったことがありませんが「東京ディズニーシ―」というテーマパークがあります。その中に「ミステリアスアイランド」という区画があるそうです。フランスのSF作家であるジュール・ヴェルヌ(1828~1905)の「海底二万里」の世界観を再現していて、アトラクションは『海底二万マイル』と『センター・オブ・ジ・アース』の2つのようです。

 そのヴェルヌの初期の作品の中に『気球に乗って5週間(1863年)』という作品があります。ナイル川の源流を確かめるためにタンザニアザンジバルから気球に乗ってアフリカを横断するという物語です。ナイル川の源流というのは地理的な好奇心だけではなく、ナイルの賜物である「エジプトの文明の源流」という意味もあり、19世紀のヨーロッパの人々にとって特別に興味をそそる場所でした。ヴェルヌの作品は空想ですが、当時はリヴィングストンやスタンレー、バートンなど実在の探検家がアフリカ大陸を冒険していました。疫病や地理的要因に阻まれ、ヨーロッパ人がナイルの源流があるアフリカ大陸内陸部を探索できたのは19世紀のことでした、内陸を探索するには鉄道や蒸気船、マラリアに対するキニーネなどの科学技術の発展を待たなければいけませんでした。

 その後、ヴェルヌは『月世界へ行く』『地底旅行』『海底二万里』『八十日間世界一周』などを発表していきます。それぞれの小説の舞台は、月、地底、海底、世界です。これらの作品の前にアフリカが舞台である『気球に乗って5週間』を発表している理由をどう考えるべきでしょうか?

 また『八十日間世界一周(1873年)』ではヨーロッパからはるか遠い日本についても説明されています。「横浜は江戸がある湾にあり、江戸とはわずかな距離しか離れていない。江戸は日本の第二の首都で将軍の住居だったが、天皇陛下に住居を譲った」という記述があります。アヘンで大変だった中国と比べているところ場面もあり、作中では日本は中国とともに「幻想的であり未だに文明化されていない国」という設定です。この作品が出たころはまだ「80日間」で世界を一周するなど夢のような物語でした。80日間で世界一周できるかどうか賭けの対象になっています。

 

 『気球に乗って5週間(1863年)』の舞台設定は19世紀中頃、この当時、アフリカとは文明も何もない暗黒大陸であり、キリスト教に改心させるべき、言葉も通じない野蛮人が住むような場所だとヨーロッパでは考えられていました。交通手段として『気球』を選んでいるのも疫病やアフリカの人たちを避けるためでした。(八十日間世界一周では鉄道や高速船、お金に物を言わせて象などを使っています)

 当時の実際のアフリカは、有史以来一度も文化を獲得したことがない場所ではなく、何世紀にもわたるヨーロッパによる奴隷化や搾取により荒廃した大陸だった訳ですが。

 作品とは関係ありませんが、歴史の中の日本とアフリカの関係ではモザンビーク出身の織田信長の家臣「弥助」が有名でしょうか。日本とアフリカの関係は地理的な距離や鎖国の問題もあり、ヨーロッパとアフリカのように密な関係は持てなかったのでしょう。

 日本各地でバルーンフェスタがありますが、一度は気球に乗ってみたいですね。5週間も乗りたくはありませんが。